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東京高等裁判所 平成11年(ネ)1178号 判決 1999年7月28日

控訴人・附帯被控訴人(一審被告。以下「控訴人」という。) 株式会社東京財資ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 多比羅誠

同 森宗一

同 清水祐介

被控訴人・附帯控訴人(一審原告。以下「被控訴人」という。) 野村ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 金丸和弘

同 飯田隆

主文

一  被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第一、第二項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が千葉県山武郡芝山町において建設中のゴルフ場(仮称「東京財資ゴルフ倶楽部」)の開業の日から三年間を経過した日が到来したとき、又は、平成一五年六月二五日が到来したときは、そのいずれか早く到来する日限り、四二〇〇万円を支払え。

2  被控訴人のその余の第一次請求を棄却する。

二  本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

四  この判決は、被控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  附帯控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は、被控訴人に対し、控訴人が千葉県山武郡芝山町において建設中のゴルフ場(仮称「東京財資ゴルフ倶楽部」)の開業の日から三年間を経過した日が到来したとき、又は、平成一五年六月二五日が到来したときは、そのいずれか早く到来する日限り、六〇〇〇万円を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

第二事案の概要

本件事案の概要は、以下のとおり加除訂正するほか、原判決事実及び理由の「第一 本件請求」及び「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四頁二行目の「を取得す」を「により自己の各債権の弁済を受け」と、同六行目の「第二の7」を「第二の一の7」とそれぞれ訂正し、同九行目の「又は」の次に「、」を加える。

二1  原判決五頁五行目の「変更後」の前に「定款の目的」を加え、同六行目の「等」を削除し、同六頁三行目、同八行目、同七頁六行目及び同八頁一一行目の「被告会社」を「控訴人」と、同六頁八行目の「株主及び役員」を「株主並びに役員」と、同一〇行目から一一行目までの「被告は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす」を「争いがない」と、同八頁八行目から九行目までの「C」を「D」と、同九頁二行目の「E」を「F」と、同四行目の「G」を「H」とそれぞれ訂正し、同一〇頁七行目及び同一三頁三行目の「利息支払」の次の「い」を、同一二頁三行目の「利息支払」の次の「期」を、同一六頁四行目の各「預金債権」の前の「定期」をそれぞれ削除し、同一七頁二行目の「ご承諾くださるよう連署をもってご依頼」を「御承諾下さるよう連署をもって御依頼」と、同一〇行目の「対してローン」を「対し、会員権を取得するための融資(ローン)」とそれぞれ訂正し、同一八頁五行目の「履行請求権」の前の「債務」を削除し、同一九頁六行目の「『質権設定依頼書』」を「本件承諾依頼書」と、同九行目の「これにより、」から同一一行目の「(弁論の全趣旨)」までを「このように、京葉銀行は、本件預金債権につき質権設定を承諾せず、前記(一)のとおり、京葉銀行が控訴人に対し、保証履行請求権と本件預金債権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたことにより、本件預金債権は消滅したことになるから、被控訴人は、本件預金債権に有効な質権の設定を受け、これにより自己の各債権の弁済を受けることができなくなったものである」と、同二〇頁二行目の「原告」を「控訴人」とそれぞれ訂正する。

2(一)  原判決二一頁八行目の「原告の愛時資」を「愛時資の被控訴人」と訂正し、同一一行目の「本件質権設定契約」の次に「又は本件質権設定」を加え、同二二頁二行目から三行目の「定期預金差入証」を「本件担保差入証」と訂正し、同六行目の「否認する。」の次に「本件質権設定契約の締結を裏付ける証拠である本件担保差入証及び本件預金証書を担保品として預かった旨の愛時資あての預り証は、愛時資と被控訴人が勝手に作成したものであり、そのことは右の預り証が愛時資あてになっていることから明らかである。」を加える。

(二)  原判決二三頁三行目の「該当する。」の次に「なお、前記第二の一の2の(二)のとおり、愛時資グループ以外が控訴人の株式の二〇パーセントを保有していること、愛時資グループ外から控訴人固有の役員が派遣されていること、特に、株式会社東映及び同三越も経営に関与していることに鑑みれば、控訴人と愛時資は、資本的にも人的にも一心同体には当たらないというべきである。」を加え、同二五頁二行目から三行目の「被告会社」を「控訴人」と訂正する。

(三)  原判決二七頁六行目の「したがって」から同九行目の「いわなければならない。」までを「そうすると、二一億円の借り換えにおいて、被控訴人が新規に取得した担保はないから、被控訴人は、いわば『添え担保』として事実上本件預金証書の差入れを受けたにすぎない。もっとも、本件預金証書を事実上預かるだけでも、①相殺されないまま満期を迎えれば解約払戻金から債権回収をすることが可能になり、②控訴人が勝手に本件預金債権を解約すること及び解約払戻金を第三者に弁済することを防止することができ、③京葉銀行が自行預金質入の方法であらかじめ本件預金債権に法的な担保を設定することを防止することもできるなど、十分な担保的効果を得ることができ、被控訴人はそのことを知っていたものである。」と、同一一行目の「本件定期預金」を「本件預金債権」とそれぞれ訂正し、同二八頁四行目、六行目及び九行目の「保証」の前にいずれも「連帯」を加え、同二九頁一行目の「原告は」から同三行目の「すぎないのであり、」までを「被控訴人は、京葉銀行が本件預金債権と相殺すべき反対債権を有しており、本件預金債権に質権を設定することを京葉銀行が承諾する可能性はほとんどないことを知りながら、本件預金証書を預かることにより担保的効果を得ることができることから、これを事実上預かったものであり、」と訂正し、同五行目の「ないのである。」の次に改行し「(5) なお、被控訴人は、①本件質権設定には京葉銀行の承諾を得ることが決定的に重要であるにもかかわらず、事前に京葉銀行に照会しなかったこと、②平成四年三月三〇日に本件預金証書の差入れを受けた後、本件質権設定についての京葉銀行の承諾書の入手を督促せず、事態を放置したこと、③同年一二月三日、京葉銀行から本件質権設定の承諾を拒否されたにもかかわらず、愛時資及び控訴人に対し、代りの担保を求めなかったこと、④甲第六号証にも、控訴人が京葉銀行から本件質権設定の承諾を得る旨の記載はないこと、などの事情も、被控訴人に質権設定の意思がなかったことを示すものである。」を加える。

(四)  原判決三〇頁三行目の「争う。」の次に「なお、被控訴人は、自ら京葉銀行に連絡し、本件質権設定についての承諾を得ることはなく、控訴人が作成した本件承諾依頼書を手元に残し、これを京葉銀行に提出しなかった。その理由は、控訴人から、本件質権設定に対する京葉銀行の承諾は取得済みであるとの説明を受けており、あえて京葉銀行に本件承諾依頼書を提出しなくても、控訴人を通じて京葉銀行の承諾書を入手できる予定だったからである。控訴人から右のような説明がされている以上、自ら先走って京葉銀行から承諾を得ることは、かえって控訴人と京葉銀行との信頼関係を破壊するおそれがあり、そのような行動を差し控えるのが金融業界の常識である。そうすると、本件において被控訴人が京葉銀行に本件質権設定の承諾を求めなかったのは、控訴人が京葉銀行の了解を得ていると説明し、被控訴人がこれを信じたことによるものであるから、仮に右の点につき被控訴人に過失があったとしても、その過失割合が控訴人と同じ五割ということは絶対にあり得ない。」を加える。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、本件全資料を検討した結果、被控訴人の請求は、債務不履行に基づき、本件ゴルフ倶楽部の開業の日から三年間を経過した日、又は、平成一五年六月二五日のいずれか早く到来した日限り、四二〇〇万円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の第一次的請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり加除訂正するほか、原判決事実及び理由の「第四(第三の誤りである。) 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

1(一)  原判決三〇頁一〇行目の「(Iの陳述書)」の前に「証」を加え、同三一頁五行目の「所有しており、」を「保有し、控訴人と愛時資の役員の多くは、Jを中心とした愛時資グループの関係者が兼任しており、したがって、」と、同九行目の「J証人の証言」を「J証人及び証人K〔K証人という。〕の各証言」と、同一〇行目及び同三二頁二行目の「東京材資」を「東京財資」とそれぞれ訂正し、同三二頁一行目の「行っていた」の次に「。」を加え、同三三頁七行目から八行目の「証人K〔K証人という。〕」を「K証人」と、同三四頁一〇行目の「三月二六日ころ」を「三月二五日ころ」とそれぞれ訂正し、同三五頁三行目の「差し入れる」の次に「、本件預金債権に質権を設定することについて京葉銀行は承諾しており、京葉銀行の承諾書はJにおいて入手する」を、同六行目の「本件預金証書」の前に「本件預金債権に質権を設定し、」を、同七行目の「甲第一二」の次に「、一七」をそれぞれ加え、同三六頁五行目の「ご承諾くださるよう連署をもってご依頼」を「御承諾下さるよう連署をもって御依頼」と訂正し、同九行目の「捺印を受けた。」の次に「しかし、被控訴人は、控訴人(財務担当者)から、本件預金債権に質権を設定することについては京葉銀行の承諾を得ている、承諾書はJにおいて入手する旨の説明を受けていたことから、本件承諾依頼書を控訴人に交付しなかった。」を加え、同三七頁一行目の「第六」の前の「甲」を削除し、同二行目の「ないし一三」の次に、「、第一二号証、乙第一一号証、I証人及びJ証人の各証言」を加え、同七行目の「被告会社」を「控訴人」と、同三八頁四行目の「I部長」を「管理部課長であったI(I課長という。)」と、同七行目及び同一一行目の「I部長」を「I課長」と、同八行目の「要求した。次いで、I部長は、」を「要求した上」と、同一一行目の「支店長代理が」を「支店長代理を介して、」とそれぞれ訂正し、同三九頁二行目の「原告が同年」から同四行目の「回答があった」までを削除し、同四〇頁三行目の「なお、」から同六行目の「かったもの」までを「このような措置を採ったのは、本件預金証書が被控訴人に差し入れられていたため、京葉銀行として本件預金債権につき自行預金質入の方法を採ることができなかったからである」と訂正する。

(二)  原判決四〇頁八行目の「以上の事実が認められる。」を「2 以上の認定に対し、」と、同四一頁五行目の「容易く」を「たやすく」と、同四二頁一行目から二行目の「右のJ証人の証言及び乙第一二号証の陳述記載は、信用しない。」を「京葉銀行は、被控訴人が本件預金債権に質権を設定することを承諾していたと認めることはできない。」と、同三行目の「次に、I証人は、」から同四五頁六行目の「できないのである。」までを「また、控訴人は、本件預金証書を差し入れるに際し、本件質権設定につき京葉銀行の承諾を得ていると説明したことはないと主張している。この点につき、I証人は、Jが被控訴人の事務所を訪れて右の説明をしたと証言しているが、J証人は、そのころ被控訴人の事務所には行っていないと証言している。しかし、J証人は、控訴人の財務担当者がそのころ被控訴人の事務所を訪れ、本件預金債権に質権を設定することについては京葉銀行に説明済みであり、京葉銀行は質権設定を承諾している旨を説明したと明確に証言しているのである。また、I証人は、当時管理部の担当者は控訴人と折衝しておらず、直接の対応は融資二部の部長であったLか次長であったMがしており、Jから説明を受けたということは、折衝の翌日、右Lからの説明により知ったと証言しているのであるから、J自身が被控訴人の事務所を訪れて説明したというのは、I証人の記憶違いの可能性が強い。以上の認定によれば、控訴人の財務担当者は、被控訴人の事務所を訪れ、Lら被控訴人の担当者と折衝した際、京葉銀行は本件預金債権に質権を設定することを承諾している旨を説明したと認めるのが相当である。なお、被控訴人は、作成した本件承諾依頼書を京葉銀行に提出しなかったが、このことは、控訴人が被控訴人に対し、本件質権設定につき京葉銀行の承諾を得ている。Jにおいて京葉銀行から承諾書を入手するという説明がされ、被控訴人がそのことを信じたことを窺わせる事実に付合するというべきである。したがって、控訴人が被控訴人に対し、本件質権設定につき京葉銀行の了解を得ていると説明したことはないという控訴人の主張は、採用することができない。」とそれぞれ訂正する。

(三)  原判決四五頁七行目の「2 右認定事実によると、」を「3 前記1の認定事実によると、」と訂正し、同七行目の「本件預金証書」の前に「本件預金債権に質権を設定し、」を加え、同八行目の「担保として」を削除し、同四六頁四行目から五行目の「こということができるから」を「ということができ」と、同五行目の「いえる。」から同六行目の「理由がある」までを「認められる」とそれぞれ訂正し、同八行目の「民集三巻」の次に「七号」を加え、同九行目の「(6)」を「6」と訂正し、同四七頁三行目の「ということになる。)。」の次に、「なお、控訴人は、本件質権設定契約を裏付ける証拠である本件担保差入証及び本件預金証書を担保品として預かった旨の愛時資あての預り証は、愛時資と被控訴人が勝手に作成したものであると主張し、控訴人は本件質権設定契約に関与していなかったと主張するが、後記二において認定する控訴人と愛時資の関係に照らすと、右の主張を採用することはできない。」を加える。

2  原判決四七頁七行目の「所有しており、」を「保有し、控訴人と愛時資の役員の多くは、Jを中心としたグループの関係者が兼任していることからして、」と、同九行目の「の各事実を併せると、」を「などを総合すると、」と、同四八頁五行目の「争点二に関する被告の主張は理由がない。」を「これに対し、控訴人は、愛時資グループ以外が控訴人の株式の二〇パーセントを保有していること、愛時資グループ外から控訴人固有の役員が派遣されていること、特に、株式会社東映及び同三越も経営に関与していることに鑑みれば、控訴人と愛時資は、資本的にも人的にも一心同体には当たらないと主張する。しかし、保有する株式数からすると、Jの愛時資及び控訴人に対する影響力、支配力は極めて大きいといわざるを得ず、愛時資グループ外の者が役員に就任しているとしても、その数は少なく、名目上の役員である可能性も否定できないから、控訴人の主張する事実によって右の認定を左右することはできない。」とそれぞれ訂正する。

3  原判決四九頁二行目の「被告は、」から同四行目の「すぎず、」までを「控訴人は、被控訴人は京葉銀行が本件預金債権と相殺すべき反対債権を有しており、本件預金債権に質権を設定することを京葉銀行が承諾する可能性はほとんどないことを知っていたが、本件預金証書を預かることにより事実上の担保的効果を得られることから、これを預かったにすぎないのであって、」と訂正し、同五行目の「しかしながら、」の次に「J証人は、その証言及び陳述書において、本件質権設定契約の相手方である控訴人は、被控訴人に対し、本件預金債権に有効な質権を設定する意思を有していなかったなどと明言していないし、」を加え、同一一行目の「質権設定承諾依頼書に代表印」を「本件承諾依頼書に代表者印」と、同五〇頁四行目の「何らの見返りなしで」を「十分な見返りなしに」とそれぞれ訂正し、同一〇行目の「が、これが」から同一一行目の「疑わしい」までを削除し、同一一行目から同五一頁一行目の「したがって、」から同三行目の「考えられる。」までを以下のように訂正する。

「 これに対し、控訴人は、前記第二の二の3の(二)の(1)のとおり、本件預金証書を預かるだけでも①ないし③の担保的効果が事実上あったと主張するが、それは本件預金債権が京葉銀行により同行相殺されないということを前提にしており、ゴルフ会員権市場の悪化により貸金の返済が困難になったという事態が既に生じていたことに照らすと、通常の金融機関が本件預金証書を預かるだけで満足するとは認め難い。

また、控訴人は、被控訴人は馬頭ゴルフ倶楽部の担保価値を一六八億三〇〇〇万円と評価しており(甲一七号証)、借り換え後に馬頭ゴルフ倶楽部により担保される本件貸金(一)が七九億円(甲一号証の一)、本件貸金(二)が一四億円(甲二号証の四)、新たに設定した根抵当権の極度額が三五億円(乙九号証)、さらに、先順位の「NFC二〇億円」(甲一七号証)を控除しても、二〇億円以上の剰余価値があったと主張しているが、これは、被控訴人があえて本件預金債権に質権を設定する必要はなかった旨を主張しているものと解される。しかし、平成四年当時は、不動産の市場価値は下落傾向にあり、前記のとおりゴルフ会員権市場の悪化という事態が発生していたことも考慮すると、被控訴人が、不動産以外の確実な担保として、馬頭ゴルフ倶楽部への根抵当権設定に加え、本件預金債権に質権を設定することは、金融機関として相当な措置であったというべきであり、これをもって被控訴人に質権を設定する意思がなかったということはできない。」

4  原判決五一頁九行目の「承認」とあるのを「証人」と訂正し、同九行目の「したがって」から同五二頁二行目の「締結した」までを削除し、同五行目の「及びその正数倍」から同七行目の「受けていること」までを「並びにその整数倍の金額であることが認められることなど」と、同九行目の「及び本件預金債権」を「並びに本件預金債権」と、同一〇行目の「容易に知り」から同五四頁一一行目の「相当である。」までを「予見することができたということができる。そうすると、本件預金債権に質権の設定を受けようとする被控訴人は、質権設定契約に先立ち、右の点を控訴人に聴き、又は、京葉銀行に照会するなどして調査した上、京葉銀行が本件預金債権に質権を設定することを承諾したことを確認し、有効な質権が設定されない事態が生じることを防止する義務があるというべきである。しかるに、被控訴人は、京葉銀行の了解を得ているという控訴人の口頭の説明を鵜呑みにし、右の点を確認するための手段を全く採らず、さらには、控訴人をして本件承諾依頼書に代表者印(京葉銀行に対する届出印)を押捺させたにもかかわらず、Nが質権設定の承諾書を入手するという説明を軽信し、京葉銀行にこれを交付して記名押印を求めるなどしないで、漫然と保管し続けたものである。確かに、被控訴人が控訴人から京葉銀行の了解を得ている旨の説明を受けていたとすれば、控訴人と京葉銀行との信頼関係に配慮し、直接京葉銀行に問い合わせる等の措置を差し控えるということが望ましい場合もあろう。しかし、そうであれば、被控訴人としては、直ちに控訴人に対し、京葉銀行から質権設定の承諾書を徴するよう求め、それが遅れるようであれば、自ら京葉銀行に連絡して本件質権設定を承諾する意思の有無を確認し、かつ、本件承諾依頼書への記名押印を求め(京葉銀行は、本件質権設定を承諾していたというのであるから、直接連絡をすることにより控訴人と京葉銀行との信頼関係を損なう事態を招くということはあまり考えられない。)、その上で弁済を猶予すべきであった。特に、本件質権設定当時、ゴルフ会員権市場が悪化し、馬頭ゴルフ倶楽部の会員権の販売収入をもって融資金全額の返済を受けることが困難になっていたのであるから、京葉銀行の承諾を得ているとの控訴人の口頭の説明を全面的に信頼することは、金融機関として適切な対応であったということはできない。そうすると、被控訴人が本件預金債権に有効な質権の設定を受けられず、そのため貸金一〇億円を回収することができず損害を受けたことについては、被控訴人にも過失があるといわざるを得ないから、控訴人の債務不履行による損害賠償の額を定めるについては、このことを斟酌すべきである。よって、これまで認定した事実及び本件に現れたすべての事情を考慮し、控訴人の過失割合を七割、被控訴人のそれを三割と認めるのが相当である。」とそれぞれ訂正する。

二  以上の認定によれば、被控訴人は、控訴人の債務不履行により一〇億円の損害を受けたが、過失相殺により、被控訴人が取得した損害賠償請求債権は七億円になるところ、前記第二の一の7の(五)により、右債権は和議債権として取り扱われ、元本の九四パーセント及び利息損害金全額が免除された結果、四二〇〇万円の支払を求める限度で被控訴人の請求は理由があることになる。もっとも、被控訴人の主張する損害賠償債権の和議債権届出に対し、整理委員及び和議管財人が共に異議を述べ、東京地方裁判所も、和議認可決定において、右届出に係る和議債権の存在につき証明があるものとは認めがたいと判断しており(乙第四号証)、控訴人も本訴においてこれを争っていることからすると、本件において四二〇〇万円の損害賠償債権の存在を確認しただけでは、控訴人が和議条件どおりの履行をしない可能性が強いから、被控訴人には、確定した和議条件どおりの将来の給付の訴えを提起する権利保護の利益があるというべきである(したがって、第二次請求について判断する必要はない。)。

よって、被控訴人の本件附帯控訴は一部理由があり、控訴人の本件控訴は理由がないから、これと判断を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 萩原秀紀)

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